マレーシアで就労ビザ(Employment Pass:EP)を維持したまま転職する場合、日本とは異なる独自のプロセスが存在します。
特にリリースレター(Release Letter)を伴う転職は、税務・移民・企業間の調整が複雑に絡み、想定以上に時間がかかるケースも少なくありません。
本記事では、実体験をもとに「転職先内定〜入社まで」の一連の流れを14ステップで体系的に整理し、各プロセスの注意点・所要期間・実務ポイントを解説します。
本記事の前提条件
本記事は、以下の前提条件に基づいてマレーシア国内での転職手続きについて整理したものです。
まず、現在の雇用主よりRelease Letter(退職・転職承認書)が発行されるケースを前提としています。企業や契約内容によっては発行されない場合もありますが、本記事ではリリースレターに基づき既存EP(Employment Pass)キャンセル手続きと新規EP申請時に必要となるケースを想定しています。
次に、本記事はマレーシア国内での転職におけるEP切り替えを対象としています。国外転職や一度出国を伴うケースとは手続きや要件が異なるため、ご注意ください。
また、今回のケースではパスポートの有効期限が14か月未満であったため、TOE(Transfer of Endorsement)手続きを実施する前提で整理しています。十分な残存期間がある場合は当該手続きは不要となりますが、条件によっては後工程に影響するため、本記事ではあらかじめ実施するケースを含めています。
上記前提に該当しない場合は、一部手続きや必要書類が異なる可能性があるため、個別に確認することを推奨します。
マレーシア転職手続きの流れ
- 採用通知(転職先)
- 退職通知(転職元)
- TOE(必要時)
- Offer Letter作成
- Release Letter取得
- CP22A提出
- EPオンラインキャンセル
- EP新規申請
- MDEC Acknowledgement
- EPフィジカルキャンセル
- Tax Clearance取得(ESPC)
- 新EP発行
- 退職
- 入社
① 転職先で採用通知
概要
採用内定の通知。ポジション・給与レンジ・開始予定日などの条件が提示される。
この時点では法的拘束力が弱く、後続のOffer Letterが正式契約となる。
実務ポイント
- 入社予定日はEP取得スケジュールと整合させる必要あり
- 条件面(給与・ビザサポート有無)を必ず確認
提出書類
- 入社申請書
- パスポートコピー
- 健康申告書
- 身元保証人に関する申告書
- 身元調査同意書
- 学歴証明書
実際の所要日数
2営業日
コメント
提示された内容を十分に確認し、条件に納得したうえで受諾するか判断することが重要です。提出資料に基づき、転職先企業にて各種確認・審査が行われます。
② 転職元で退職通知
概要
上長およびHRへ正式な退職意思を通知し、退職プロセスを開始する契機となる。
実務ポイント
- メール送付だけでなく必ずフォロー(対面・チャット)を行う
- 通知日=各種SLAの起点となるため記録を残す
- 退職日から逆算してスケジュール設計が必要
- 退職通知後に退職日の確定、残存する休暇申請を行う
実際の所要日数
即日
コメント
一般的には、法的拘束力のある雇用契約締結後に退職意思を伝えることが望ましいとされています。なお、人事部署へ正式に通知する際は、英文でのメール作成が求められる場合があります。
③ TOE(Transfer of Endorsement)(転職元)
概要
EP更新のためにパスポートの有効期限が14か月未満の場合はパスポートを更新する必要がある。パスポート更新時に、既存のEmployment Pass(EP)の情報を新パスポートへ紐付ける手続きを行う。
実務ポイント
- 「不要」と案内されても後から必要になる場合がある
- EPキャンセル・新規申請に影響するため事前確認が重要
必要書類
- 新旧パスポートのコピー
- EP情報
SLA目安
- 政府基準:3~5営業日
- 実態:14~20営業日
実際の所要日数
12営業日
コメント
状況により必要性が変わることがあるため、事前確認と早めの対応が望まれます。特にパスポート更新と併せて進める場合は、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。
■ 参考リンク
④ Offer Letter作成(転職先)
概要
法的拘束力のある雇用契約書。EP申請の必須書類。
実務ポイント
- 記載内容(給与・役職・勤務地)がEP申請内容と一致している必要あり
- 署名後の修正は手続き遅延の原因となる
必要書類
- 雇用契約書
- 機密保持契約
SLA目安
数日~1週間
実際の所要日数
2営業日
コメント
内示受諾後、正式なオファーレター発行まで一定期間を要する場合があります。その間に企業側で各種確認が行われることが一般的です。
⑤ Release Letter作成(転職元)
概要
現職企業が退職および転職を承認したことを証明する書類。EP新規申請時に必要。
実務ポイント
- EP切替手続きやTax Clearanceを行うために必要
- フォーマットは企業ごとに異なる
- 一般的に有効期限が設定されており、取得後速やかにEP切替手続きやTax Clearanceに移行することが望ましい
必要書類
- 新しい雇用主のオファーレターまたは採用内定通知書
- パスポートのコピー
SLA目安
7営業日
実際の所要日数
即日
コメント
発行が遅れる場合もあるため、必要に応じて適切にフォローを行うことが重要です。状況に応じて直接確認することで、円滑に進むケースもあります。
⑥ CP22A作成(転職元)
概要
雇用主が税務当局へ提出する外国人従業員の退職通知。税務クリアランスの前提。
実務ポイント
- 提出後に税務処理が開始される
- 遅延するとTax Clearance Letterの発行に影響
必要書類
- パスポートのコピー
- リリースレター
SLA目安
7営業日
実際の所要日数
6営業日
コメント
通常は給与担当部門にて作成・提出されるため、必要書類の提出を迅速に行うことが重要です。
⑦ EP・DPオンラインキャンセル(転職元)
概要
雇用主がオンラインシステム上でEPおよびDPのキャンセル申請を行う。
実務ポイント
- 即日処理されるが、後続のフィジカルキャンセルが必要
- キャンセル日が就労終了日とみなされる場合あり
必要書類
- 新しい雇用主のオファーレター
- 出国用航空券またはMDEC Acknowledgement Letter
- 税務関連書類(ESPC及びCP22/CP21)
SLA目安
即日
実際の所要日数
即日
コメント
オンラインキャンセル完了後は、速やかに転職先へ連絡し、新規申請へ移行することが望ましいです。
⑧ EP・DP新規申請(転職先)
概要
新雇用主による就労ビザの新規申請。最重要プロセス。
実務ポイント
- 書類不備で差し戻しとなる可能性が高い
- 学歴・職歴の整合性が重要
- 承認前の就労は不可
必要書類(EP)
- 証明写真
- パスポートコピー
- 学歴証明書
- 最新の履歴書
- 最新の納税証明書または確定申告書
- リリースレター
必要書類(DP)
- 証明写真
- パスポートコピー
- ディペンデントパスコピー
- 婚姻証明書
- 出生証明書
SLA目安
2~4週間
コメント
申請後は受領確認(Acknowledgement Letter)の発行を待ち、進捗を継続的に確認することが重要です。
⑨ MDEC Acknowledgement Letter取得(転職先)
概要
申請受理を示す確認書(該当企業のみ)。
実務ポイント
- 初期段階での重要プロセス
- 停滞すると全体スケジュールに影響
SLA目安
5~7営業日
実際の所要日数
即日
コメント
発行が遅延する場合もあるため、定期的なフォローと状況確認が推奨されます。
⑩ EP・DPフィジカルキャンセル(転職元)
概要
パスポート上のビザを正式に無効化する手続き。
実務ポイント
- 原本提出が必要
- LHDNオフィス訪問のために事前予約が必要
必要書類
- パスポート原本
- MDEC Acknowledgement Letter
SLA目安
4~6営業日
⑪ ESPC(Tax Clearance Letter)受領
概要
税務当局が発行する納税完了証明。
実務ポイント
- CP22A提出後に処理開始
- 未納がある場合は発行不可
- ESPC発行後に保留給与が支払われる
必要書類
- CP22A
- 確定申告書
SLA目安
14営業日
コメント
遅延が発生する場合もあるため、一定期間経過後は適切にフォローアップを行うことが重要です。
⑫ 新規EP・DP受領(転職先)
概要
新しいEmployment Passの発行およびパスポートへの貼付。
実務ポイント
- 発行後でないと正式入社不可
- 記載内容・有効期限の確認が必要
必要書類
- パスポート原本
SLA目安
1~2週間
⑬ 転職元で退職
概要
最終出社日。会社資産返却および最終手続き。
実務ポイント
- 未完了タスクがあると書類発行に影響
- Exit clearanceを実施
コメント
余裕を持ったスケジュールで手続きを進めることで、その後の手続きが円滑に進みます。
⑭ 転職先で入社
概要
新会社での就業開始。
実務ポイント
- EP発効日と入社日を一致させる
- 初日から就労可能な状態であることを確認
コメント
入社日に向けて、必要な手続きがすべて完了しているか事前に確認しておくことが重要です。
転職フローチャット

スケジュール設計のコツ
マレーシア国内での転職においては、各種手続きが相互に依存しているため、時間設計が全体の成否を左右する重要なポイントとなります。特にEP申請や税務手続きは想定以上に時間を要するケースも多く、余裕を持った計画が不可欠です。
理想スケジュール
退職意向の通知:退職の3か月前
社内手続き(Release Letter、CP22A、税務対応など)には一定のリードタイムが必要です。3か月前に通知することで、各プロセスを並行して進めやすくなります。
EP申請開始:退職の1〜1.5か月前
転職先でのEP申請は最重要工程であり、書類不備や審査遅延が発生する可能性があります。前工程(Release Letter取得やオンラインキャンセル)と連動させ、早めに着手することが重要です。
入社:EP発行後
EPが正式に発行されるまでは就労が認められないため、入社日は必ずEP発効日と整合させる必要があります。発行遅延を考慮し、柔軟に調整できるようにしておくと安心です。
注意点
退職の2か月前から手続きを開始する場合、Tax ClearanceやMDEC審査の遅延が発生すると全体スケジュールが逼迫する可能性があります。実務上は想定よりも時間がかかるケースが多いため、可能な限り3か月前から準備を開始することが望ましいです。
想定される課題
① Release Letterの期限切れ
課題内容
Release Letterには有効期限(一般的には30日間)があり、手続き遅延により失効する場合がある。
主な要因
- EP申請やMDEC手続きの遅延により、取得後すぐに使用されず期限を超過してしまう
- 書類不備や社内承認の遅れにより、申請プロセスが停滞する
対応策
- Release Letter取得前に必要書類を揃え、取得後すぐにEP申請へ進める体制を整える
- 有効期限を基準に逆算した進捗管理を行い、遅延が見込まれる場合は早期に再発行を相談する
② MDECでの手続き停滞
課題内容
Acknowledgement Letter発行で処理が止まるケースがある。
主な要因
- 就労ビザ制度変更の影響で審査キューが滞留し、通常より処理期間が長期化する
- 軽微な書類不備や追加確認事項が発生し、担当者側で処理が保留となる
対応策
- HR任せにせず、定期的(週1~2回)に進捗確認とリマインドを実施する
- 不備の可能性を事前に洗い出し、提出前チェックおよび状況共有を徹底する

③ Tax Clearance(ESPC)の遅延
課題内容
税務当局による証明書発行が遅延することがある。
主な要因
- 担当者ごとの対応状況に依存し、処理スピードやレスポンスにばらつきがある
- 問い合わせ未対応や内部処理の滞留により、申請が長期間放置される場合がある
対応策
- SLA経過後は速やかにCustomer Care等を通じて状況確認および担当者特定を行う
- 必要に応じて上位部署や別担当者へのエスカレーションを行い、対応を促進する
④ TOE未対応による停滞
課題内容
TOE未実施により後工程で問題が発生する場合がある。
主な要因
- 初期段階で「不要」と判断され対応が見送られ、後続手続きで再対応が必要となる
- パスポート更新との連携不足により、EP情報の紐付けが適切に行われていない
対応策
- パスポート更新時点でTOEの必要性を必ず確認し、不明な場合でも事前対応を検討する
- EPキャンセルおよび新規申請との依存関係を理解し、前倒しで手続きを完了させる
総括
これらの課題は、事前準備と進捗管理の徹底により多くが回避可能です。各工程の依存関係と期限を明確にし、主体的に対応することが重要です。
参考リンク
LHDN
Lembaga Hasil Dalam Negeri Malaysia
MDEC
Malaysia Digital Economy Corporation | MDEC
マレーシア入国管理局
まとめ
マレーシアでの転職は、日本と比較して「ビザ・税務・企業」の3軸が絡むため、業務管理に近い対応が必要です。転職成功の鍵は「事前準備」と「進捗管理」です。
各プロセスは独立しているようで密接に連動しており、1つの遅延が全体に波及します。
特にEP関連とTax Clearanceはボトルネックになりやすく、また、企業側の認識齟齬や担当者依存による遅延も現実的に発生するため、受け身ではなく能動的なフォローが非常に重要です。
重要事項まとめ
- 退職は最低3ヶ月前から準備開始
- TOEの要否は事前に必ず確認
- Release Letterは有効期限に注意
- EPキャンセルと新規申請のタイミング管理
- MDECは止まりやすい(必ずフォロー)
- Tax Clearanceは遅延前提で動く
- EP発行前は就労不可
- 全工程で書類整合性が最重要
- 「待つ」のではなく「動く」ことが成功の鍵

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